人は嗅覚を備えているので、人類誕生と同時に匂いを感じ、香りと関わりを持っています。 そして人類が生活をはじめることで世界各地で固有の香り文化をもつようになりました。
メソポタミア文明「神々と結ぶ香煙」
肥沃な三日月地帯に栄えたメソポタミア(チグリス・ユーフラテス川流域)では、香りは「神々への橋」とされました。
神殿では乳香や没薬を焚き、立ちのぼる香煙が祈りを天へと運びました。楔形文字で記された粘土板には、香油や香水の調合法が残され、王侯貴族は身だしなみや医療にも香りを活用しました。メソポタミアの香文化は後のエジプトやギリシャ、さらには現代の香り文化にも大きな影響を与えています。
| 特徴 | 香りは神との媒介、香煙は神との交信 |
| 用途 | 宗教儀式(神に煙を捧げる) 医療(消毒・鎮痛) 美容(香油・軟膏) |
| 香料例 | 乳香、没薬、杉、菖蒲 |
エジプト文明「永遠を包み込む香り」
古代エジプト(ナイル川流域)では、香りは「永遠」を司る存在で、ミイラ作りには没薬、桂皮などの芳香植物や樹脂が用いられ、防腐と聖別の役割を果たしました。
王や貴族は香油で身を清め、儀式や祝祭には香料を焚き、神殿の壁画やパピルスには香油製造の様子が描かれ、クレオパトラはクローブや、バラやジャスミンの香りを船に漂わせ、愛と政治の両方で香りを操ったと伝えられています。
| 特徴 | 香りは死後の世界への旅の必需品 |
| 用途 | 神殿儀式、医療 王族の美容 ミイラ作り(防腐) |
| 香料例 | 儀式(乳香、甘松香) 防腐(没薬、桂皮、丁香) |

インダス文明「水辺に咲く香りの文化」
大河の流域に栄えたインダス文明(現パキスタン・北西インド)では、沐浴と清浄が生活と信仰の中心でした。
またアーユルヴェーダの源流がすでに芽生え、香草や精油の処方が存在し医療にも用いられていました。また祭祀や瞑想において香りは心身を清め、神聖な空間を作り出し、入浴と香りを組み合わせ、身を清めてから神に祈る習慣もありました。特に白檀は穢れを払う大切な存在でした。
| 特徴 | 香りは「清浄」の象徴 |
| 用途 | 医療、宗教儀式、沐浴、浄化 |
| 香料例 | 清浄(白檀) 医療(生姜、桂皮、小豆蔲) |
中国文明「気血を通し、邪気を払う香り薬」
古代中国(黄河・長江流域)では、香は医療・宗教・日常生活に密接に関わっていました。『神農本草経』などの古典には、沈香や白檀が気の巡りを調え、邪気を祓う薬として扱われています。また香りのある生薬は、薬湯、薬酒、薬膳として健康のために用いられました。
漢代から香炉が普及し、唐・宋代には香芸(香道)が貴族文化として発展し、香は心身の調和と礼儀を象徴する存在にもなりました。
| 特徴 | 香薬の効能、調合技術の発展 |
| 用途 | 祭祀、薬用、空間浄化、香芸 |
| 香料例 | 沈香、白檀、丁子、桂皮、陳皮、薄荷 |
ギリシャ文明「美と知性を引き立てる香」
古代ギリシャでは、香りは美と知性の象徴でした。哲学者たちは酒宴で芳香を漂わせ、心を解きほぐして議論を深めました。オリーブ油にハーブや花を漬け込んだ香油は、運動後の体を癒し、女性たちは香りで魅力を引き立てました。アポロンやアフロディーテの祭礼でも香料が焚かれ、香りは神々と人とを結びつける役割を果たしていました。贅沢なほどに香を使うことで、調香技術の発展や残香性理論を確立しました。

| 特徴 | 調香技術の発展、残香性理論 |
| 用途 | 祭祀、美容、官能 |
| 香料例 | 乳香、バラ、スミレ、 |
古代の人々にとって、香りは単なる嗜好品ではなく、それは祈り・医療・美・権威・愛といった、人生の根幹を支える存在でした。